2006年04月20日
症例紹介 ケース014 左上大臼歯部のサイナスリフト併用のインプラント同時埋入症例 その1
『サイナスリフト』これは上顎の臼歯部におけるインプラント治療を考えるときに避けて通ることのできない治療オプションの一つとも言えます。特に日本人を含むアジア系の人種の場合、そもそものオリジナルの上顎骨の高さが欧米人に比べ少ないそうです。従って歯周病などによる歯槽骨の吸収を伴っていて抜歯に至ったケースの場合、インプラント体を支える骨の量がどうしても不利になりがちになるのです。しかも上顎の骨は下顎のそれに比べて若干柔らかめであるということもあり、上顎臼歯部におけるインプラント治療が困難と言われている理由でもあるのです。
『サイナスリフト』は決してたやすい治療オプションではありません。上顎洞というもの自体が個人差の非常に大きいものでなおかつ複雑な形態をしているからです。従ってこのオプションを選択する場合は十分な知識と入念な治療計画の下に行われて初めて成功するものなのです。インプラント治療を検討される場合もその点をしっかり説明してくれる歯科医院をお勧めいたします。
今回のケースはサイナスリフトを併用してインプラントの埋入を同時に行った訳なのですが、上顎洞の形態にやや問題点があり、サイナスリフトのリフトアップ時の問題、そしてインプラントの埋入場所や方向にも制限が多く非常にスキルを要した症例でした。
<ケース014 左上大臼歯部 サイナスリフト併用インプラント同時埋入症例 その1>
まずはいつものようにCT撮影を行い、オペ部位の様子をうかがう。上顎洞内に炎症があれば粘膜の肥厚なども観察されるのです。



左上の6番のインプラント埋入予定部分のCT。幅は十分にあり、ワイドタイプのインプラントの埋入が可能なようである。長さに関してはサイナスリフトをするのであまり問題はない。オリジナルの骨も6-7mmあり、充分同時埋入には耐えうる量である。



左上7番のインプラント埋入予定部位のCT。ここも頬側に異常に張り出した骨隆起があり、この部分から自家骨を採取できそうです。幅も問題ない。骨隆起の発達からも咬合力の強さが予測され、インプラント体は一番太い直径のものを選択することが望ましいと思われます。
ただ、ここで問題なのが7番埋入予定部位の後方からすーっと立ち上がってくる後壁というか中隔っぽい骨の存在です。CTを様々な角度で分析するとちょうどたまごのような形で中隔が存在することがわかりました。
ですから、ちょっと後方へインプラントの埋入がずれるとこの中隔に当たってしまうのです。
だからといって前へ入れすぎると、ワイドなインプラントですから今度は5番と接近しすぎることになりこれもまずい。しかもインプラントとインプラントの間隔は最低でも3mmはほしい(インプラントの周囲の歯肉の環境を良好な形でととのえるため)。となると、ホントにインプラントの埋入場所が限られてくるのです。ここしか駄目って感じです。まさに『前門の虎、後門の狼』状態。。。
でもこれがオペの前にわかっていることがとても重要なのです。様々なことに対して予測がつくからです。
手術は大学病院で口腔外科の先生と共同でセデーション(鎮静状態にして少し意識のレベルを下げること)を併用して行われました。

まず切開線の設定です。頬側に張り出した骨隆起は自家骨の採取の時に利用します。切開をし、フラップをあけて頬側の薄い骨を少しずつ慎重にとっていき、上顎洞内壁のシュナイダー膜をきれいに内側に反転していきます。ここでは口腔外科の先生のまさに集中力と精神力が問われる部分です。

窓あけされた部分の内側に見えているのがシュナイダー膜。鼻で息をすると呼吸に合わせてペコペコと動きます。
そしていよいよインプラントの埋入です。ここでオペレーターが私に交代で、横から口腔外科の先生が上顎洞の中を見ながら一緒にドリリングをしていきます。後の中隔に当たらないように慎重に...。


やっとインプラントが埋入できました。7番のところは中隔に当たることなく何とか埋入できました。前方のインプラントの間隔もうまくいったようです。
その後自家骨と骨補填材をミックスしたものを上顎洞内に充填していきます(右の写真)。

縫合終了。頬側の骨隆起をとったことと、インプラントの埋入深度を調節することにより、減張切開を入れることなく粘膜を縫合することができました。

埋入後のパノラマ写真。結構埋入の時口が開きづらくて大変だったのですが、きちんと平行に埋入できていてホッとしました。埋入したインプラントは3I社製 オッセオタイトNT 直径5mm×長さ13mmが2本でした。
後はインプラントがきちんとオッセオインテグレーションをするのを待ちます。
このようなケースの場合、外科の先生、麻酔科の先生、そしてわたしたちインプラントを行う歯科医が互いに協力することで非常にレベルの高い仕事が確実にできるということを改めて実感できました。
また、これらの記録を非常にスピーディーに的確に撮影してくれた当院スタッフ(写真係)にも感謝です。